
なわばりを見張るミドリシジミのオス
8月の夕方、ハンノキの木立の西日を強く受ける側、5〜15mの高さで、なわばりを争ってくるくると飛ぶチョウ。7月の話題にも登場した仲間の一種で、これは正式名称が「ミドリシジミ」という種類です。じっくり観察すると、オスたちの活動のピークは17時から18時だということがわかります。
一方、メスを見たくて何度も通うと、15時半から16時半によく出てきていることがわかりました。オスより早い時間帯で、地上2m以下の高さを飛びます。オスたちが熾烈な肉体的闘争に明け暮れるのと違い、メスは低い葉の上での日光浴と、ハンノキ幼樹への産卵行動をくり返し、10〜15分で林の中へ消えていきます。そしてまた別のメスが姿を現して、同じようなことを行います。

産卵中のメス 早朝、日光浴のため低い場所に下りてきたオス
オスが「全員の時間」を持つのに対し、メスが持つのは「個別の時間」です。そして、時間的にも空間的にも、オスとメスの行動が重ならなく見えるから不思議です。いつどこで出会い、交尾を行っているのでしょうか。
このチョウでよく知られているのは、メスに遺伝的な4タイプの色彩があって、ヒトの血液型同様、A、B、AB、Oに分けられることです(かつて大学入試の共通一次試験に、遺伝の問題として出題されたことがあります)。
B型やAB型に現れる青い鱗粉の光沢は、フェルメールの絵を思わせる美しさ。去年はO型しか見られませんでしたが、今年は4タイプを確認できました。目で見える違いだけが遺伝的多様性ではありません。でも、小さな個体群(観察している木立では、多い年でも雌雄合わせて30〜40匹)の中にすべての型が現れるのは、ひとまず安心なことです。

メスの遺伝的4タイプ(左からA型、B型、AB型、O型)