夏の夕方のオニグルミ
夕方、オニグルミの木の梢を高速で飛び交い、追い合う小さなチョウ、オナガシジミ(成虫の活動期は主に8月)。オニグルミならあちこちにありますが、このチョウが発生するのは、西日がよく当たる、孤立した大木に限られます。激しいなわばり合戦は、一日のうちわずか一時間ほど。
クルミハムシの幼虫 謎の虫
アカスジキンカメムシ(上)とクルミハムシ カメノコテントウ
木の下へ行って見上げていると、だんだん、だんだん、いろいろな虫がみつかります。青い実にとまって汁を吸う美しいカメムシたち。葉をかじるクルミハムシの幼虫。その天敵、カメノコテントウ。幹にあいた穴は、カミキリムシが羽化して出た痕かもしれません。さらに、ふしぎな形をした、体長1cmほどの虫。トゲトゲのある翅(?)を、左右別々にぐるぐる回しながら歩いています。
アカスジキンカメムシ(上の2匹) 幹にあいた穴から樹液が流れたあと
とツノアオカメムシ カメムシに汁を吸われた実
梢はチョウの世界。樹冠や幹は、甲虫やカメムシの世界。地下の根にもきっと‥‥‥。一本の木が複雑で多様な生命のすみかになっています。そして、一本の木だけで完結するものでもありません。同じ種類の虫でも、一部の個体は遠く離れた別のクルミへの飛行に挑戦するでしょう。そう考えると、クルミのまわりに昆虫がつくる世界は二重構造。
さて、ふしぎな形の虫は、シロテンクロマイコガという名前のガでした。翅のように見えたのは、毛深い後ろ脚。中脚よりも前に出し、宙で回すしぐさの意味は、謎のままです。幼虫がクルミの実を食害することから、かつてはクルミミガとよばれ、最近ではマタタビの実にもつくことがわかっています。ここから、クルミのまわりの世界と重複して、マタタビをとりまく多様性の世界が始まるわけです。自然界は、まるで雨の日の、池の波紋のような多重構造です。
謎の虫の正体は「シロテンクロマイコガ」