2013年04月02日

冷涼で湿潤な風土が産んだ多様性

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カスミサンショウウオと生息地(長崎県:照葉樹林と休耕田)。卵のうは透明な三日月型。

 早春のこの時期、日本では何種類ものサンショウウオが産卵の季節を迎えています。日本は国土のわりに小型サンショウウオの種類が多く、比較的せまい地方ごとに別種に分かれています。平地の池や田で産卵するものから、山地の渓流で産卵するものまで。幼生は水中で育ちますが、えらがなくなって変態すると上陸し、森林内の地上でひっそりと暮らします(オオサンショウウオは一生を水中で過ごします)。

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クロサンショウウオと生息地(石川県:山地のブナ林と池)。卵のうは白く不透明なアケビ型。

 DNAによる研究が進むにつれ、これまで同一種とみなされていたものが、別種として扱われるようにもなってきています。新種として認定される可能性のある地域個体群が、まだいくつもあります。
 種類が増えるかもしれない(今、急速に種分化しているということではありません)一方で、開発や里山放棄の影響で、絶滅に瀕した個体群が非常に多くあります。放置された休耕田も、水があるうちはよいのですが、干上がると壊滅です。水辺と森が、道路や宅地などで分断された結果、数年で個体群が消失することも珍しくありません。

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ヒダサンショウウオと生息地(石川県:山地の小渓流)。卵のうは渓流の石の下に産みつけられ、水中で青く光る。巨大な砂防堰堤が彼らの遡上する道を塞いでいる。スギ植林地で伐り落とされたままの枝も、沢を土砂で埋める原因になっている。

 山地渓流性の種類はわりあい安泰かと思われましたが、激減していることがわかってきました。
 先日、ヒダサンショウウオの生息地を取材しました。このサンショウウオは、小渓流中の、子供の頭ほどの石ががっしり組み合わさったその裏側に卵を産みつけます。しかし、源流近くまで砂防堰堤が造られ、それによって沢に土砂がたまるにつれ、そうした大きな石が埋もれていっているのです。水量も少なくなりました。
 やむなく脆弱な石ころに産卵しているものがいましたが、本来の産卵場所ではありません。孵化するやいなや、幼生が生育できないところまで一気に流されてしまいそうでした。

 サンショウウオは高温と乾燥に弱く、夏はひんやりした森の地中で眠ってすごすものも。サンショウウオの種多様性の高さは、多雨多雪の森の国、冷涼で湿潤な日本の風土を象徴しています。多くのサンショウウオが日本固有種です。日本の各地が自然遺産になろうとするときに、その価値を証言する大事な存在でもあるのです。

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外縁の蛍光色が魅惑的な卵のうと、母親と思われる若いメスのヒダサンショウウオ




posted by あーすわーむ事務局 at 20:45| Comment(0) | なし | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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