雨の降りしきる池の周囲、木々の緑に白いものがたくさんついています。モリアオガエルの卵塊です。このカエルは本州の山地に分布し、天然記念物に指定されている場所もありますが、全体としては数が少ないわけではありません。
卵塊の大きさはリンゴの実ほど メスを待つオス
5〜6月、メスは池に入って膀胱に水を吸い込み、木に登ります。オスは池のまわりでココココッ、コッコッコッとたくさん鳴いています。その声でメスをひきつけながら、より早くメスに気づいたものが有利。メスの背中の中央に抱きつければ、数百個の卵の多くを受精させることができるからです。
メスが粘液を出しながらそれを足でかきまぜると、白く泡立ちます。その中に産卵するのです。そして、ときには何匹ものオスが放精します。
やがて泡の外側は固まり、中の水分を保ちます。二週間ほどでかえったオタマジャクシは、ポトリ、ポトリと池の中の世界へ旅立っていきます。
(左)静岡県のモリアオガエル (右)新潟県のモリアオガエル(1匹のメスに3匹のオス)
このカエル、太平洋側では背中に茶色い斑のある個体が多く、日本海側では斑がない個体が多いという地域差があります。
DNAを用いた最近の研究では、本州の東北部のものと西南部のものは別の系統に分けることができ、分かれた年代は83〜105万年前だろうと推定されています(水野・松井 2012)。分かれた要因として、気候変動や地殻変動(山脈の形成など)が考えられています。
繁殖が終われば池から離れ、おそらく何kmも移動する個体もいるでしょう。でも、山の中で、池のありかは限られています。結局、翌年も同じ池に戻る個体が多くなるでしょう。平野部の湿地に広くみられるシュレーゲルアオガエルやアマガエルなどよりも、地域間の遺伝的交流が生まれにくい、つまり遺伝的隔離が起こりやすい種類なのかもしれません。
オタマジャクシがかえる頃、卵塊の下には天敵のイモリが待ち受ける。モリアオガエルのいる古池では定番の光景。