2016年07月03日

キツネの食卓

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 キツネが農作物を荒らすといって嫌われることがあります。時期によっては糞の中にトウモロコシやブルーベリーなどが多く見られますが、キツネの主食はネズミやノウサギ、小鳥や昆虫など。植物質だけでは生きられません。
 軽井沢の広い農耕地では、朝は山林へ戻るキツネ、夕方は狩りに出てくるキツネをよく見かけます。ところどころ休耕地になっていて、草原性の鳥がすんでいます。オオジシギ、ノビタキ、ホオアカ、コヨシキリ、セッカなど、よそではみられなくなった希少種や、ヒバリ、スズメ、カワラヒワなどです。
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左からオオジシギ、ノビタキ、ホオアカ、コヨシキリ、セッカ 
 いろいろいること、つまり多様性は、一様性に比べ、生態系を安定させます。ある鳥が何かの原因で少なくなっても、別の鳥が補うようにキツネの食卓を支えます。目につきやすいものが多く捕まり、それが滅びる前に別のものが目につきやすくなって捕まり、その陰で前のものがじわじわと数を復活させる、という動きのある関係です。
キツネ2'.jpg 枯れ草に身を隠し獲物に忍び寄る
 「キツネが増えた」という言う人もいますが、多くは主観的な印象でしょう。家の周囲にたまにしか現れなかった1頭が、何度か続けて来れば、「増えた」と言われてしまいます。キツネにはある程度なわばりがありますし、一カ所で過密に暮らせるほど獲物は多くありません。また、子ギツネのすべてが大人になれるほど、自然界は甘くありません。小鳥もキツネに対応できる警戒心を身につけています。肉食の動物は狩りのために高い技術が必要で、常に飢餓と闘いながら広い範囲を探索して生活しています。
キツネ3'.jpg



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2016年01月30日

いくつもの頂点

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ノスリ

 食物連鎖という言葉は、複雑に入り組んだ生きものどうしの関係を表すのには単純すぎて、あまり使われなくなりました。食物網という図式・概念の方が多く使われます。しかし、マグロはサンマを食べますが、マグロの稚魚はサンマに食われるかもしれません。種類の名前だけで図を描くのには限界があります。
 「生態系の頂点」という言葉も耳にし、図にはタカなどが描かれています。でも実際には、タカは種類ごとに狙っている獲物が違い、すべての生態系の頂点に立てるようなタカはいません。

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(左)サシバ (右)オオタカ

 ノスリはネズミやモグラを多く食べ、時期によってはカエルやヘビや昆虫もよく捕らえます。サシバは両生爬虫類を多く捕らえますが、昆虫や鳥、ネズミなども食べます。オオタカはヒヨドリやカモやキジなど、中型の鳥を多く捕らえます。ハイタカは小鳥専門。クマタカはノウサギ、ヘビ、ヤマドリそのほか中型の鳥を捕らえますが、食糧が豊かでないときは、雪崩などで死んだ動物の肉にもありつきます。

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(左)ハイタカ (右)クマタカ

 食い分けているからこそ、多くの種類が生き残ってきました。タカの種類の数だけ生態系の頂点があるわけです。頂点の数が多いほど、その場所の環境は獲物の多様性にも富んだ、豊かな生態系といえるでしょう。



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2015年08月11日

アサギマダラとフジバカマ

DSCF1757'.jpg イケマで吸蜜
 渡りをする大柄で美しいチョウとして有名なアサギマダラ。南西諸島で越冬したものが春に産卵しながら本州を北上し、秋に新世代が南下します。多くのファンが各地で翅にマーキングをして放し、遠方で再捕獲されては話題になり、ロマンを誘います。
 ガガイモ科のイケマなどに産卵して幼虫がそれを食べ、その葉に含まれる毒を体内に蓄積。幼虫も成虫も目立つ模様が「食べてもまずいぞ」というPRになっているようです。
DSCF1326.jpg ヨツバヒヨドリで吸蜜
 オスはヒヨドリバナ属のフジバカマやヨツバヒヨドリから蜜を吸うことで性成熟します。アサギマダラの里にしようと、フジバカマを植える試みもしばしば見聞きします。が、フジバカマは奈良時代に中国から移入されたという説もあり、かつて撹乱の多い河原などでは多かったらしいのですが、少なくとも1950年代以降、国内ではほとんど自生が確認されていません。
 秋の七草に数えられる風流さから、「フジバカマでアサギマダラを」という郷愁的な思いもわかりますが、園芸店などで入手したフジバカマを植えるのは反自然的移入ですし、花もそっくりな在来種のヨツバヒヨドリで十分ではないでしょうか。

 地域固有の自然のつながりを無理に曲げずに保全していくとりくみが大切です。そして、美しいアサギマダラばかりが特別な存在ではありません。発想を発展させて、ほかの生きものはどうだろうかと目を向ける想像力も必要です。多様性を保全するには、いつまでも一種類に留まっていられないのも現実です。


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