2013年07月15日

ゲンゴロウ類の種多様性

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 ゲンゴロウといえば、昔は田んぼにもふつうで、長野県などでは食用にもされていました。ところが近年の激減はただごとではなく、2012年には準絶滅危惧種から「準」が取り除かれるランクアップ(環境省 2012)。

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(左)オモダカと、実りの稲穂 
(右上)ゲンゴロウ (右下)ヒメゲンゴロウ(左)とコシマゲンゴロウ


 長野県のある地方では、約10年前にドジョウとともに大量死しているのがみつかりました。水田の除草剤などが影響した可能性も。空を飛んでため池と水田を行き来するゲンゴロウも、濃い農薬にはやられてしまいます。さらに、ブラックバスが放たれた池では壊滅しますし、マニアによる採集圧も馬鹿になりません。一方、広島県尾道市では、自然にやさしい農法のシンボルとして、「源五郎米」のブランド化に成功しています。

 さて、大量死以来みつかっていなかったゲンゴロウを探しに探し、つい最近、再発見しました。この地域では、1980年代後半に残っていた水田(稲作全盛期の半分以下)の90%が、その後、休耕田に変わり、乾燥化が進んでいます。最大のため池にはブラックバスが泳いでいます。再発見がつかのまの喜びとならぬよう、彼らの生息の実態把握と環境保全のため、すぐに策を講じたいものです。

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(上左)ゲンゴロウ。弱った小魚やカエルの死骸などを食べる 
(上右)ゲンゴロウによく似た別の仲間、ガムシ。こちらは水草などを食べる。やはり減少が心配されている
(下)まだ水の残る休耕田。浅瀬には浅瀬ならではの種類がいるはず


 日本全体では140種類ものゲンゴロウがいますが、一つの地域では多くても十数種類でしょうか。よく知られているものでは、ふつうに見られる順に、ヒメゲンゴロウ(小型種)、コシマゲンゴロウ(小型種)、クロゲンゴロウ(中型種)、ハイイロゲンゴロウ(小型種)、シマゲンゴロウ(小型種)、ゲンゴロウ(大型種)など。これらの種の多様性を指標に、地域の水辺の環境評価ができるはずです。そうした方面の研究が進むことも期待されます。


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2013年06月20日

お故郷(くに)はどこ?・・・モリアオガエル

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 雨の降りしきる池の周囲、木々の緑に白いものがたくさんついています。モリアオガエルの卵塊です。このカエルは本州の山地に分布し、天然記念物に指定されている場所もありますが、全体としては数が少ないわけではありません。

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卵塊の大きさはリンゴの実ほど             メスを待つオス

 5〜6月、メスは池に入って膀胱に水を吸い込み、木に登ります。オスは池のまわりでココココッ、コッコッコッとたくさん鳴いています。その声でメスをひきつけながら、より早くメスに気づいたものが有利。メスの背中の中央に抱きつければ、数百個の卵の多くを受精させることができるからです。
 メスが粘液を出しながらそれを足でかきまぜると、白く泡立ちます。その中に産卵するのです。そして、ときには何匹ものオスが放精します。
 やがて泡の外側は固まり、中の水分を保ちます。二週間ほどでかえったオタマジャクシは、ポトリ、ポトリと池の中の世界へ旅立っていきます。

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(左)静岡県のモリアオガエル (右)新潟県のモリアオガエル(1匹のメスに3匹のオス)

 このカエル、太平洋側では背中に茶色い斑のある個体が多く、日本海側では斑がない個体が多いという地域差があります。
 DNAを用いた最近の研究では、本州の東北部のものと西南部のものは別の系統に分けることができ、分かれた年代は83〜105万年前だろうと推定されています(水野・松井 2012)。分かれた要因として、気候変動や地殻変動(山脈の形成など)が考えられています。 

 繁殖が終われば池から離れ、おそらく何kmも移動する個体もいるでしょう。でも、山の中で、池のありかは限られています。結局、翌年も同じ池に戻る個体が多くなるでしょう。平野部の湿地に広くみられるシュレーゲルアオガエルやアマガエルなどよりも、地域間の遺伝的交流が生まれにくい、つまり遺伝的隔離が起こりやすい種類なのかもしれません。

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オタマジャクシがかえる頃、卵塊の下には天敵のイモリが待ち受ける。モリアオガエルのいる古池では定番の光景。


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2013年04月02日

冷涼で湿潤な風土が産んだ多様性

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カスミサンショウウオと生息地(長崎県:照葉樹林と休耕田)。卵のうは透明な三日月型。

 早春のこの時期、日本では何種類ものサンショウウオが産卵の季節を迎えています。日本は国土のわりに小型サンショウウオの種類が多く、比較的せまい地方ごとに別種に分かれています。平地の池や田で産卵するものから、山地の渓流で産卵するものまで。幼生は水中で育ちますが、えらがなくなって変態すると上陸し、森林内の地上でひっそりと暮らします(オオサンショウウオは一生を水中で過ごします)。

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クロサンショウウオと生息地(石川県:山地のブナ林と池)。卵のうは白く不透明なアケビ型。

 DNAによる研究が進むにつれ、これまで同一種とみなされていたものが、別種として扱われるようにもなってきています。新種として認定される可能性のある地域個体群が、まだいくつもあります。
 種類が増えるかもしれない(今、急速に種分化しているということではありません)一方で、開発や里山放棄の影響で、絶滅に瀕した個体群が非常に多くあります。放置された休耕田も、水があるうちはよいのですが、干上がると壊滅です。水辺と森が、道路や宅地などで分断された結果、数年で個体群が消失することも珍しくありません。

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ヒダサンショウウオと生息地(石川県:山地の小渓流)。卵のうは渓流の石の下に産みつけられ、水中で青く光る。巨大な砂防堰堤が彼らの遡上する道を塞いでいる。スギ植林地で伐り落とされたままの枝も、沢を土砂で埋める原因になっている。

 山地渓流性の種類はわりあい安泰かと思われましたが、激減していることがわかってきました。
 先日、ヒダサンショウウオの生息地を取材しました。このサンショウウオは、小渓流中の、子供の頭ほどの石ががっしり組み合わさったその裏側に卵を産みつけます。しかし、源流近くまで砂防堰堤が造られ、それによって沢に土砂がたまるにつれ、そうした大きな石が埋もれていっているのです。水量も少なくなりました。
 やむなく脆弱な石ころに産卵しているものがいましたが、本来の産卵場所ではありません。孵化するやいなや、幼生が生育できないところまで一気に流されてしまいそうでした。

 サンショウウオは高温と乾燥に弱く、夏はひんやりした森の地中で眠ってすごすものも。サンショウウオの種多様性の高さは、多雨多雪の森の国、冷涼で湿潤な日本の風土を象徴しています。多くのサンショウウオが日本固有種です。日本の各地が自然遺産になろうとするときに、その価値を証言する大事な存在でもあるのです。

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外縁の蛍光色が魅惑的な卵のうと、母親と思われる若いメスのヒダサンショウウオ




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