2012年10月25日

クルミの木をとりまく世界

                         ホルスタイン模様が人気のオナガシジミ
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夏の夕方のオニグルミ      

 夕方、オニグルミの木の梢を高速で飛び交い、追い合う小さなチョウ、オナガシジミ(成虫の活動期は主に8月)。オニグルミならあちこちにありますが、このチョウが発生するのは、西日がよく当たる、孤立した大木に限られます。激しいなわばり合戦は、一日のうちわずか一時間ほど。

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                   クルミハムシの幼虫              謎の虫
アカスジキンカメムシ(上)とクルミハムシ        カメノコテントウ


 木の下へ行って見上げていると、だんだん、だんだん、いろいろな虫がみつかります。青い実にとまって汁を吸う美しいカメムシたち。葉をかじるクルミハムシの幼虫。その天敵、カメノコテントウ。幹にあいた穴は、カミキリムシが羽化して出た痕かもしれません。さらに、ふしぎな形をした、体長1cmほどの虫。トゲトゲのある翅(?)を、左右別々にぐるぐる回しながら歩いています。

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アカスジキンカメムシ(上の2匹)     幹にあいた穴から樹液が流れたあと
とツノアオカメムシ    カメムシに汁を吸われた実 


 梢はチョウの世界。樹冠や幹は、甲虫やカメムシの世界。地下の根にもきっと‥‥‥。一本の木が複雑で多様な生命のすみかになっています。そして、一本の木だけで完結するものでもありません。同じ種類の虫でも、一部の個体は遠く離れた別のクルミへの飛行に挑戦するでしょう。そう考えると、クルミのまわりに昆虫がつくる世界は二重構造。

 さて、ふしぎな形の虫は、シロテンクロマイコガという名前のガでした。翅のように見えたのは、毛深い後ろ脚。中脚よりも前に出し、宙で回すしぐさの意味は、謎のままです。幼虫がクルミの実を食害することから、かつてはクルミミガとよばれ、最近ではマタタビの実にもつくことがわかっています。ここから、クルミのまわりの世界と重複して、マタタビをとりまく多様性の世界が始まるわけです。自然界は、まるで雨の日の、池の波紋のような多重構造です。

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謎の虫の正体は「シロテンクロマイコガ」




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2012年09月25日

マルハナバチにぎわう秋の草原

 生きものの進化は、特殊化ともいえます。それぞれが特殊化していけば、全体としては多様化することになります。秋の野山では、花の色や形も多種多様ながら、それを利用する昆虫たちの種類や行動の多様さにも、さすが、億年単位の歴史を感じさせられます。

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タケニグサに来たオオマルハナバチ(左)とヤマトリカブトに来たトラマルハナバチ

 マルハナバチは賢くて器用。この時期、この時間には、どの花がよく蜜を出しているということをしっかり覚え、集中的にそこへ通います。同じ種類同士で花粉をつけてまわってもらえるので、花は好都合。ほかの虫が来にくく、マルハナバチだけが蜜を採れるように、複雑なつくりの形を進化させた花がたくさんあります。

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ツリフネソウに出入りするトラマルハナバチ。蜜は花の奥の細く巻いた部分にある。
花の天井から雄しべが吊り下がっているので、ハチがもぐると背中に花粉がつく。
ハチの背中が金色なのは、花粉がついているため。


 花粉も集めるマルハナバチ。後ろ足につけた「花粉団子」の色は、訪れた花によって違います。早朝、あざやかなオレンジ色の花粉団子をつけたオオマルハナバチを見かけました。夜の花のマツヨイグサがまだ閉じておらず、そこで花粉集めをしていたためです。アザミに来ていたトラマルハナバチの花粉団子はしま模様。二度、三度と、花の種類を変えたのでしょうか。

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メマツヨイグサに来たオオマルハナバチ(左)とノアザミに来たトラマルハナバチ。
花粉団子の色に注目。


 オオマルハナバチは「盗蜜」という行動を行います。花にもぐらずに、外側から蜜のある部分に穴をあけ、蜜だけ失敬するのです。花は花粉を運んでもらえず、裏切られたことになります。ふと見ると、セイヨウミツバチも盗蜜しているではありませんか。自分で穴をあけたのでしょうか、それとも、オオマルがあけた穴から蜜を吸っているのでしょうか。

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ツリフネソウから盗蜜するオオマルハナバチ(左)とセイヨウミツバチ

 ホンシュウハイイロマルハナバチは、東北地方の一部と、長野県の一部に隔離分布する種類です(北海道にいるハイイロマルハナバチの亜種)。最終氷期が終わって以降、しだいに分布をせばめた遺存種です。休耕田では、ハイイロマルハナバチはクサフジの細かい花によく来ます。オオマルやトラマルは体が大きいため、この花にはほとんど来ません。一方、ツリフネソウが咲いていても、ハイイロマルハナバチはほとんど素通り。ハチたちは食物を分けることで共存しているともいえますし、花がハチの種類を使い分けていると見ることもできます。ハチを個体ごとに追跡しようか、種類ごとに見ようか、目移りのする秋の草原です。

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ヒルガオ(左)とクサフジに来たホンシュウハイイロマルハナバチ


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2012年08月30日

ABO式血液型? ミドリシジミの遺伝的多型

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なわばりを見張るミドリシジミのオス

 8月の夕方、ハンノキの木立の西日を強く受ける側、5〜15mの高さで、なわばりを争ってくるくると飛ぶチョウ。7月の話題にも登場した仲間の一種で、これは正式名称が「ミドリシジミ」という種類です。じっくり観察すると、オスたちの活動のピークは17時から18時だということがわかります。
 一方、メスを見たくて何度も通うと、15時半から16時半によく出てきていることがわかりました。オスより早い時間帯で、地上2m以下の高さを飛びます。オスたちが熾烈な肉体的闘争に明け暮れるのと違い、メスは低い葉の上での日光浴と、ハンノキ幼樹への産卵行動をくり返し、10〜15分で林の中へ消えていきます。そしてまた別のメスが姿を現して、同じようなことを行います。

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産卵中のメス         早朝、日光浴のため低い場所に下りてきたオス

 オスが「全員の時間」を持つのに対し、メスが持つのは「個別の時間」です。そして、時間的にも空間的にも、オスとメスの行動が重ならなく見えるから不思議です。いつどこで出会い、交尾を行っているのでしょうか。

 このチョウでよく知られているのは、メスに遺伝的な4タイプの色彩があって、ヒトの血液型同様、A、B、AB、Oに分けられることです(かつて大学入試の共通一次試験に、遺伝の問題として出題されたことがあります)。
 B型やAB型に現れる青い鱗粉の光沢は、フェルメールの絵を思わせる美しさ。去年はO型しか見られませんでしたが、今年は4タイプを確認できました。目で見える違いだけが遺伝的多様性ではありません。でも、小さな個体群(観察している木立では、多い年でも雌雄合わせて30〜40匹)の中にすべての型が現れるのは、ひとまず安心なことです。

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メスの遺伝的4タイプ(左からA型、B型、AB型、O型)


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